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2024.04.22

資金繰りが苦しいときの対処法は?受けられる支援や改善方法も解説

資金繰りが苦しくなったときの対処法には、資産を売却する・人件費を減らす・返済や支払いの延期を依頼するなどの方法が挙げられますが、それぞれ注意点があります。たとえば人件費削減は、短期的な資金繰り改善には効果的かもしれませんが、従業員のモチベーション低下や、企業のブランドを損なうリスクに注意しなければなりません。

当記事では、資金繰りが苦しくなる主な原因や対処法、資金繰りが苦しいときに検討したい支援策、相談先を詳しく紹介します。

 

1.資金繰りが苦しくなる原因は?

資金繰りが苦しくなる原因は、どのような業界に属する企業であっても、一定の共通する理由があります。以下では、資金繰りが苦しくなる代表的な原因について4つ紹介します。

 

1-1.経営計画に問題がある

資金繰りが苦しくなる主要な原因の1つとして、経営計画の問題が挙げられます。経営計画は、企業の将来の方向性を定め、資源の配分を計画するためにも重要です。しかし、経営計画が現実的でない場合や、市場の変化や顧客のニーズを十分に考慮できていない場合、資金繰りにも影響が出始めるケースがあります。

たとえば、過度に楽観的な売上予測を立てると、実際の収入が予測に達しない場合に資金不足に陥りかねないでしょう。また、売掛金の回収遅延により資金繰りが悪化する場合もあります。予期しないコストが発生した際に、十分な財務的余裕がなければ、企業は資金繰りに苦しくなります。

 

1-2.無駄な出費が多い

企業は、利益を生み出すための適切な投資と支出が不可欠ですが、無駄な出費は企業の財務健全性に大きな悪影響を及ぼす恐れがあります。

無駄な出費は、計画性のない投資やコスト管理の不備から生じることが多いです。たとえば、効率の悪い生産工程や過剰な人件費、高価な事務用品や機器の購入なども、無駄な出費となり得ます。こうした出費は、短期的には大きな影響を与えないかもしれませんが、長期にわたって積み重なると企業の資金繰りを圧迫するでしょう。

さらに、市場の需要を正確に分析せずに行われる投資や、不十分な市場調査に基づく新製品の開発も、無駄な出費につながるリスクがあります。これらは資金・資源等の浪費だけでなく、新たな好条件・高能率なビジネスチャンスの機会喪失にもつながります。

 

1-3.在庫を抱えている

在庫は、資金を物理的な商品に変換した状態です。過剰な在庫は、企業の流動資産を圧迫し、現金の回転率を低下させます。これにより、企業は必要な現金を他の事業活動や投資に充てることができなくなり、資金繰りの問題が発生します。

在庫が過多になると、製品の価値が時間とともに減少するリスクも伴います。特に、技術の進歩が早い業界や流行の変化が激しい市場では、陳腐化が早く投下した資金の回収を逃す可能性があります。また、在庫を保管するためのスペースや、保管に関連する費用も企業の負担となり馬鹿になりません。

出典:J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]「在庫を多めにもつことの悪影響について教えてください。」

 

1-4.投資に失敗している

企業の成長や競争力の維持のためには、新技術の導入、市場拡大、製品開発などへの投資が不可欠です。しかし、これらの投資が失敗に終わると、大きな財務的負担をもたらし、資金繰りに影響を与える可能性があります。

投資失敗の原因は多岐にわたりますが、代表的な例は市場のニーズを誤って評価したり、競争環境の変化を見誤ったりすることが挙げられます。また、技術的な難しさや開発の遅れが原因で、期待された成果が得られない場合もあるでしょう。これらのシナリオでは、企業は投じた資本の回収が困難になり、それが資金繰りの問題に直結します。

さらに、投資失敗はキャッシュフローに直接的な打撃を与えるだけでなく、企業の信用度にも影響を及ぼす恐れがあります。信用度が下がることで、追加の資金調達が困難になったり、利益率が低下したりすることもあります。

このようなリスクを最小限に抑えるためには、投資前の徹底した市場調査、リスク分析、そして戦略的な意思決定が不可欠です。また、不確実性が高い投資に対しては、段階的な現状分析を行うことや、リスクを分散させること、さらには、勇気ある撤退も重要となります。

 

2.資金繰りが苦しくなったときの対処法

資金繰りが苦しくなったときの対処法として、まずは顧問税理士や経営コンサルタントなど、専門家に早めに相談することが大切です。並行して、以下のような対処法も検討しましょう。

 

2-1.経費を削減する

企業がコスト削減を考える際、重要なのはまず「どの業務にどの程度のコストがかかっているか」、そして「そのコストが適正かどうか」を明らかにすることです。直接コストは比較的管理しやすいものの、間接コストの把握ができていない企業も少なくないでしょう。間接コストを効果的に把握し管理するための手法として、活動基準原価計算(ABC:Activity Based Costing)があります。

間接コストは従来、売上高や生産数量を基準にして製品やサービスに配分されますがこの方法では、製品やサービスごとの正確な間接コストが把握しにくいという問題があります。対して、ABCは各製品やサービスごとにかかる間接コストをより正確に計算する手法です。企業の各活動を細分化し、それぞれの活動が消費する原価を割り当てることで、製品やサービスの真のコストを明らかにします。

ABCを用いると、企業はコストの見える化を図り、無駄な出費や非効率なプロセスを特定しやすくなるのがメリットです。しかし、ABCの導入と維持には時間とコストが必要であり、その運用には継続的な努力と経営陣相互のコミットメントが必要です。

出典:J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]「コスト削減の仕方」

 

2-2.在庫を減らす

在庫削減を行う際には、まず在庫の正確な把握が必要です。そのためには在庫の管理を徹底する必要があります。PC等を利用しタグNOで入出管理された陳列商品とバックヤード商品、ひと目で分かるよう整然と管理された在庫棚(期末棚卸も簡単)、材料・仕掛品・製品が工程ごとに整然と入出庫管理された工場等々、入出庫を的確に管理することにより、どの製品が過剰にストックされているのか、またそれらの製品が市場でどの程度の需要を持っているかを分析します。過剰在庫がある場合、値引き販売やプロモーションを通じて迅速に在庫を現金に変える戦略が有効です。

しかし、このような措置は時に利益率を下げたり、顧客からの信頼性を下げたりする可能性があります。例えば、日本橋の三越百貨店など、あそこに行けば「あの商品」「現在は生産は中止になっているあの製品」「あの商品」が手に入るといった他社との差別化によって企業価値(ブランド力)を高めることで、顧客の信頼性の向上等に繋がる場合もあります。在庫の低減には、短絡的なコスト意識だけでなく、税務的方策による在庫単価の評価の正当な見直しや長期停留在庫の処分等関与税理士に相談する等して、慎重に計画する必要があります。

また、在庫削減の取り組みは、短期的な資金繰りの問題に対処するだけでなく、企業の運営効率を高める機会にもできます。たとえば、需要予測の精度を上げる、リードタイムを短縮する、ジャストインタイム(JIT)生産方式の導入、といった取り組みなどが考えられるでしょう。これらの戦略により、長期的には在庫レベルを最適化し、長期的な資金繰りの改善にも寄与します。

 

2-3.返済や支払いの延期を依頼する

金融機関に対して返済の延期を依頼することも1つの手段です。企業は銀行や貸主に対して、透明かつ誠実に現在の財務状況を説明し、返済計画の再調整や支払い条件の見直しを求めることになります。

しかし、すべての支払いを延期するわけにはいかないため、支払いの優先順位をつける必要があります。支払いの延期は短期的な資金繰り対策としては有効ですが、長期的な健全な経営運営には、根本的な財務構造の見直しや事業の再構築を図ることが不可欠です。

 

2-4.資産を売却する

資金繰りが苦しくなった際の対処法の1つとして「資産の売却」が考えられます。迅速に現金が手に入るため、特に短期的な資金不足を解消するのに有効です。企業が保有する不動産、機械設備、株式などの資産を市場に売却することで、必要な資金を調達できます。

しかし、資産売却にはタイミングが重要です。市場状況によっては、資産の価値が低下している可能性があり、その結果、思っていたよりも低い価格でしか売却できないケースもあります。たとえば経済が不況期にある場合、不動産や株式の価値は通常よりも低くなる傾向にあります。緊急に資金が必要な場合でも、市場の状況を考慮して売却のタイミングを決めましょう。

また、資産を売却すると、企業の将来的な成長潜在力や運営能力にも影響を及ぼす可能性があります。重要な資産を売却すれば、短期的には資金繰りの問題を解決できるかもしれませんが、長期的には企業の収益能力や競争力の低下につながることもあるため、慎重な判断が求められます。

 

3.資金繰りが苦しいときのNG行動

資金繰りが苦しいときのNG行動とは、一時的な資金繰りの問題を解決するように見えても、実際には企業の財務健全性を損なっている行動のことです。長期的な財務問題を引き起こすリスクが高いため、資金繰りに困ったとしても以下のような方法は使わないようにしましょう。

 

3-1.街金融から借り入れる

街金融からの借り入れは、企業の財務状況を根本的に改善する解決策にはなり得ません。

街金融とは、正規の銀行や大手金融機関と異なり、高い利息が設定されていることで知られる小規模な貸金業者を指します。通常、これらの業者は審査基準が緩く、短期的な資金調達が容易ですが、その分高い利息が設定されています。

街金融からの借り入れがNGとされる主な理由は、利息の高さから企業の財務負担が急速に増大し、結果的に資金繰りの問題をさらに悪化させるリスクがあるためです。また、こうした借入れは企業の信用を損なうことにもつながり、将来の資金調達をより困難にする恐れがあります。

街金融に頼るのではなく、財務構造の見直し、コスト削減、ビジネスモデルの再検討など、より持続可能な解決策を探求するべきです。

 

3-2.融通手形を利用する

融通手形とは、実際の取引に基づかない手形を用いて資金を調達する手段です。具体的には、取引のない企業間で手形を交換し、それを金融機関に持ち込んで割引(現金化)することで資金を得る方法です。

融通手形の利用がNGとされる理由は、この手法が企業の財務健全性を損なう可能性が高いためです。融通手形は短期的な資金繰りの改善に見えるかもしれませんが、長期的には返済負担の増大につながります。手形の期日が到来すると、資金を用意して決済しなければならず、これが新たな資金繰りの問題を引き起こす恐れがあります。

また、このような手法を利用することは、企業の信用を損ね、将来的な資金調達に悪影響を与えかねません。

結論として、融通手形の利用は一時的な資金繰りの問題を解決するように見えても、実際には企業の財務健全性を損ないます。長期的な財務問題を引き起こすリスクが高いため、資金繰りが苦しいときに避けるべき行動です。

 

3-3.税金や社会保険料を滞納する

税金や社会保険料の滞納は、そもそも法的義務に違反するので絶対に避けましょう。

税金の支払いを滞納すると、政府は強制的に資産を差し押さえることが可能です。さらに、税金の滞納は銀行からの融資を受ける際にも悪影響を及ぼします。銀行は融資の際に会社の信用状況を重視しますが、税金を滞納している企業は信用が低く見られ、必要な資金を借りるのが難しくなります。

同様に、社会保険料の滞納も問題です。健康保険、介護保険、厚生年金保険、雇用保険などの社会保険料は、従業員の福利厚生に関わる重要な支出です。これを滞納すると、銀行は会社の経営状態に疑問を抱き、融資を控えるようになります。

また、税金や社会保険料を滞納すると、追加で延滞税が発生し、さらに経済的な負担が増えます。

 

4.資金繰りが苦しいときに得られる支援

資金繰りが苦しくなったときは、政府が用意している制度や銀行からの融資を利用したり、しかるべき機関に相談したりするとよいでしょう。以下では、5つの方法について紹介します。

 

4-1.制度融資を利用する

制度融資とは、都道府県や市区町村などの地方自治体、金融機関、信用保証用協会が連携して行う融資制度で、融資のハードルを下げ中小企業の資金繰りが安定することを目的としており、創業や事業拡大など特定の目的に合わせて設計されています。制度融資の大きな特徴は、金融機関の通常の融資よりも利用しやすい条件に設定されている点です。

制度融資のメリットは、審査が通りやすい、低い金利、金利の一部を補助する利子補給制度、一定期間の据置期間の設定などが挙げられるでしょう。一方で、信用保証協会の保証が条件となり、保証協会への保証料の支払いが必要になります。制度融資の中には、保証料を補助する制度もあります。

出典:J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]「制度融資の活用」

 

4-2.セーフティネット貸付を利用する

経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)は、社会的な要因や経済的環境の変化などの外的要因により一時的に業況が悪化しているものの、中期的には業績が回復し発展することが見込まれる中小企業者を対象とした融資制度です。

例えば、経営環境変化対応資金は運転資金や設備資金に使用でき、中小企業事業には最大7.2億円、国民生活事業には最大4,800万円までの融資が受けられます。貸付期間は、設備資金に関しては最長15年、運転資金に関しては最長8年です。

出典:日本政策金融公庫「経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)」

また、セーフティネット貸付制度には3年以内の据置期間が設けられているため、借入後一定期間、返済の猶予が得られます。

 

4-3.企業再建資金を利用する

企業再建資金(中小企業事業の場合は、事業再生・企業再建支援資金)は、経営改善や再建が必要な企業に向けた融資制度です。

企業再建計画に沿った設備資金や長期運転資金に利用できます。融資限度額は中小企業事業で最大7.2億円、国民生活事業には最大7,200万円(うち運転資金4,800万円)までとなっています。

出典:日本政策金融公庫「企業再建資金」

 

4-4.専門の相談窓口を利用する

資金繰りが苦しいときには、相談窓口を利用してみましょう。

日本政策金融公庫や中小企業基盤整備機構(中小機構)などは、資金調達のアドバイスや具体的な支援策の提案を行っています。資金繰り支援や経営相談サービスを提供しています。

また、商工会議所や商工会などの地域に根ざした組織は、経営相談や融資の斡旋、補助金申請など、多岐にわたるサポートを行っています。地元企業の特性をよく理解しており、具体的で実践的なアドバイスを提供できる点が強みです。

これらの公的機関以外にも、民間のコンサルタントや信用保証協会などからも支援を受けることが可能です。特に信用保証協会は、資金調達を容易にするための保証制度を提供しており、資金繰りにおける直接的な助けとなるでしょう。

 

4-5.税理士に相談する

税理士は、会計と税務の専門家であり、企業の財務状態を正確に把握し、効果的なアドバイスを提供してくれる存在です。節税対策を含めた資金繰りの改善策を提案し、企業の財務健全性を高めるようなアドバイスをしてくれるでしょう。

融資を受ける際にも、税理士は融資審査に必要な事業計画書や決算書類の作成をサポートしたり、必要に応じて融資面談に同席したりしてくれます。

 

5.資金繰りを悪化させないための方法

資金繰りの悪化を防ぐためにも、まずは資金繰り表を作成し、資金の流れを可視化することが重要です。

資金繰り表を使うことで、企業の現金の流れを正確に把握できます。将来のキャッシュフローを予測し、資金不足のリスクを未然に防ぎやすくなるでしょう。

資金繰り表の作成方法としては、まず現金の収入と支出を時系列で記録します。売上、費用の支払い、借入金の返済など、すべての現金の動きを記載しましょう。次に、これらのデータを基に、一定期間後の現金残高を予測します。この作業によって、資金の不足が予想される時期を特定し、事前に対策を講じやすくなります。

資金繰り表の作り方について、詳しくは以下の記事も参考にしてください。

資金繰り表の作り方を解説|必要性や効果的な活用方法も

 

まとめ

資金繰りの問題を避けるためには、市場の変化に対応し、現実的な予測を立て、計画的な資金管理を行うことが不可欠です。特に、無駄な出費が多い場合は、費用対効果を常に意識し、定期的な費用分析と予算管理を行いましょう。企業全体でコスト意識を高め、無駄な支出を特定するなど、健全な資金繰りを行って、企業として持続可能な成長を目指しましょう。

資金繰りに悩んでいる場合は、税理士などの専門家に相談することもおすすめです。

監修者情報

杉田 透(すぎた とおる)

税理士法人スマッシュ経営

杉田 透(すぎた とおる)

資格:税理士

経歴

1959年
愛知県豊田市生まれ
1980年
名古屋国税局採用
2010年
法人税担当統括官
2020年
名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
所属税理士となる

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