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2023.12.07

資金繰り表の作り方を解説|必要性や効果的な活用方法も

事業者が事業を安定的に継続させるためには、資金繰りが非常に重要となります。そして、資金繰りを適切に管理するために役立つ資料が「資金繰り表」です。

資金繰り表とは、事業者の資金の収支をまとめた表を指します。貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)といった決算書・財務諸表と違って作成義務はないものの、作成することで資金繰りの改善に役立ち、黒字倒産の防止にもつながるでしょう。

今回は、資金繰り表の基礎知識から重要性、さらに作り方、活用方法まで詳しく解説します。資金繰り表の作成方法が知りたい・会社の経営状態をきちんと把握したいという企業経営者や経理担当の方は、ぜひ参考にしてください。

 

1.資金繰り表とは?

資金繰り表とは、事業における現金の収入や支出を記録する表のことです。一定期間のすべての現金収入・現金支出をそれぞれ分けて集計することで、収支状況や過不足といった実態を把握できます。

事業を行っていると、帳簿上で売上があるにもかかわらず、キャッシュフローがうまくいかないことによって手元の現金が不足する状況に陥る場合もあります。こうした問題の発生を防ぐためには、資金繰り表の作成が欠かせません。

また、資金繰り表で集計するデータは過去の実績に限らず、予測データ、いわば将来の資金計画についても記載することが一般的です。資金繰り表を作成することで、過去と未来のお金の流れを可視化でき、結果として黒字倒産の防止にもつながります。

 

1-1.キャッシュフロー計算書との違い

資金繰り表と混同されやすい書類に、「キャッシュフロー計算書」が挙げられます。

キャッシュフロー計算書とは、企業が有する現金(キャッシュ)の出入り(フロー)をあらわす財務諸表の1つです。過去の決算書に基づき作成する書類であり、上場企業のみ作成が義務付けられています。

資金繰り表とキャッシュフロー計算書の大きな違いは、その目的です。資金繰り表は今後の資金増減の予測を目的に作成する書類であるのに対し、キャッシュフロー計算書は一定の会計期間における資金増減や営業成果の公開を目的に作成する書類となっています。

キャッシュフロー計算書は、現状の事業価値や返済能力を測る際に重要な書類ではあるものの、資金繰り表と違って細かな取引内容は表示しないため、現金の使い道などは確認できません。

 

1-2.資金繰り表はなぜ必要?

資金繰り表は、キャッシュフロー計算書をはじめとした財務諸表と違って、たとえ株式会社や上場企業であっても作成義務はありません。それでも多くの企業が資金繰り表を作成するのは、数々のメリットがあるためです。

資金繰り表を作成するメリットには、「将来の収支予定を把握できる」「資金不足の原因が分かる」の2点が挙げられます。これらのメリットを詳しく把握することで、資金繰り表の必要性も自ずと理解できるでしょう。

●将来の収支予定を把握できる

資金繰り表には、前年度の損益計算書をはじめとした決算書を参考に、今後の収支金額を予測・記載します。あくまで予測データとなるため実態とは異なる可能性は十分にあるものの、将来におけるある程度の支出予定も把握できるため、資金ショートの防止・適切な資金調達額の把握にもつながるでしょう。

●資金不足の原因が分かる

資金繰りは、手元にある運転資金でまわすことが望ましいと言えます。資金繰りが悪化した際は短期借入金などで一時的にしのぐことは可能であるものの、資金不足の原因を取り除かなければ根本解決には至りません。

日々の売掛・買掛による入出金の詳細を資金繰り表で記録することによって、なぜ資金不足に陥っているかという原因のほか、原因に対する適切な対処法の特定にもつながるでしょう。

 

2.資金繰り表の作り方

資金繰り表の概要や重要性については理解できたものの、どのような流れで作成すれば良いか分からない方も多くいるでしょう。

資金繰り表の主な作成手順は、下記の通りです。

  • (1)必要書類を揃える
  • (2)レイアウトを作る
  • (3)各項目を記入する

ここからは、各手順の詳細を説明します。

 

2-1.必要書類を揃える

資金繰り表を作成するとき、まず必要となるのが必要書類の準備です。必要書類には、下記が挙げられます。

  • 現金出納帳
  • 入出金明細表(預金通帳)
  • 月次試算表
  • 管理台帳
  • 手形帳
  • 借入金返済明細・予定表

上記に示したすべての書類が必要となるわけではありません。しかし、資金繰り表の作成にあたっては、過去の実績数値から将来の予測数値を記入する必要があるため、現金の動きを追いかけるためにも、現金出納帳や月次試算表は必ず用意すべき書類と言えるでしょう。

 

2-2.レイアウトを作る

資金繰り表を作成できるだけの必要書類を揃えたあとは、各種項目を記載してレイアウトを作成します。資金繰り表に必要な項目には、下記が挙げられます。

  • 前月繰越高
  • 経常収支
  • 財務収支
  • 設備投資支出
  • 次月繰越高 など

一般的に、1か月単位で分けた上で、上記の項目それぞれに予算・実績を記入できるようレイアウトします。また、前月繰越高の項目は最上段に、次月繰越高の項目は最下段に置くことも基本です。

資金繰り表はノートに記入する方法でも問題はないものの、エクセルまたは会計ソフトの利用もおすすめです。

エクセルの場合、ネット上で無料配布されているテンプレートをダウンロードすることで、即座にレイアウトを作成できます。さらに、会計ソフトであればソフト内で記入した収支項目から資金繰り表を自動で作成できるため、レイアウト作成の手間を大幅に省けます。

 

2-3.各項目を記入する

資金繰り表のレイアウトの作成が完了したあとは、いよいよ各項目に数値を記入していきます。

エクセルをはじめとした表計算ソフトで資金繰り表を作成する場合、現金売上や売掛金回収などの具体的な項目はすべて手入力となります。しかし、各項目の合計額や次月繰越高などは、セルに適切な関数を設定しておくことがおすすめです。

関数で計算式を入れておけば、手で入力した数値に基づき自動で数値が表示されるため、計算の手間を省けるほか、ミスも防げます。

 

3.資金繰り表の活用方法

資金繰り表は今後の資金増減を予測するために作成する書類ではあるものの、活用シーンはそれだけに留まりません。

作成した資金繰り表は、「経営分析」や「融資の資料」としても大いに役立ちます。

最後に、資金繰り表が経営分析や融資の資料においてどのように活用できるのか、それぞれ詳しく紹介します。

 

3-1.経営分析

資金繰り表を経営分析で活用することによって、経営上のあらゆる課題を明らかにできます。経営分析において資金繰り表を活用するときの主なチェックポイントは、下記の通りです。

●経常収支がプラスとなっているか

帳簿上では黒字となっているにもかかわらず、資金繰り表の経常収支がマイナスとなる場合は、資金繰りに問題があると判断できます。黒字倒産を防ぐためにも、買掛金の支払い・売掛金の回収サイクルを見直すなど、適切な対処を施す必要性も浮かび上がるでしょう。

●経常収支が財務収支を上回っているか

財務収支のマイナスが経常収支を上回ると、手元資金は徐々に減ることが見込まれます。経常収支の改善を速やかに図るための「販売戦略の構築」「債権回収計画の策定」など、会社経営に関わる適切な方策を検討するきっかけとなるでしょう。

 

3-2.融資の資料

資金繰り表は、金融機関が融資実行を判断するにあたって、非常に重要な資料となります。

金融機関が行う融資の審査において、融資申込者の「資金使途」と「返済財源」の2つは最も重要な判断基準です。

貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書といった財務諸表も同様に重要とされているものの、より具体的な資金使途と返済財源が記載された予定資金繰り表は、根拠をもって借入が必要な理由を説明できます。

確実に融資を受けたいのであれば、資金繰り表に「どのように返済するか」が分かる返済シミュレーションも示しておくと、よりプラスに働くでしょう。

 

まとめ

資金繰り表とは、事業における現金の収入や支出を記録する表のことです。資金繰り表を作成することで、毎月の収支や預金残高、さらに今後の資金繰り予測ができるようになります。上場企業であっても作成義務はありませんが、中小企業・個人事業を含むあらゆる事業の経営判断には極めて重要な資料と言えるでしょう。

資金繰り表の作り方は、「必要書類を揃える」「レイアウトを作る」「各項目を記入する」と非常に簡単なことも特徴です。エクセルテンプレートを活用したり、会計ソフトを利用したりすることで、さらなる業務効率化が図れるでしょう。

とはいえ、資金繰り表を作成する際はあらゆる数値を扱うこととなるほか、資金繰り表を活用した経営分析にも少なからず会計知識が必要です。資金繰り表を正しく作成するため、そして作成した資金繰り表を有効に活用するためには、専門知識を有した専門家の力を借りることも一案です。

監修者情報

杉田 透(すぎた とおる)

税理士法人スマッシュ経営

杉田 透(すぎた とおる)

資格:税理士

経歴

1959年
愛知県豊田市生まれ
1980年
名古屋国税局採用
2010年
法人税担当統括官
2020年
名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
所属税理士となる

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