税務情報
2023.04.18
移転価格税制とは?仕組みと対応が必要なケースを解説
海外の子会社と取引をしたり、海外に製造拠点を作ったりする場合は、移転価格税制に注意する必要があります。移転価格税制の対象になると、追徴課税がなされる他、場合によっては二重課税を受けることもあります。
移転価格税制とはどのような制度なのでしょうか。当記事では、移転価格税制の仕組みと対象となる取引について詳しく解説します。海外へと事業を広げようと検討している方は、損失を防ぐためにも当記事をぜひ参考にしてください。
1.移転価格税制とは?
移転価格税制とは、海外の関連会社との取引を第三者と取引する場合の価格で行ったものとみなして、法人税の課税所得を計算する制度です。海外に関連会社がある場合、第三者が相手の場合と異なる価格で取引を行えば理論上、一方の利益を他方へと移動できます。そこで不正を防止する目的で1986年に、移転価格税制が導入されました。
移転価格税制は日本のみではなく、世界各国で関心が高まっている制度です。2012年にはOECDにより、国際課税ルールを見直すための「BEPSプロジェクト」が立ち上げられました。日本では2016年度の税制改正によってBEPSプロジェクトの最終報告書に基づく移転価格文書化制度が整備され、不正を許さない仕組みが強化されています。
1-1.移転価格税制の仕組み
移転価格税制では第三者と取引する場合の価格を、独立企業間価格と呼びます。たとえば、日本の親会社が500円で仕入れたものを海外の関連会社に800円で販売したとしましょう。この取引の独立企業間価格が1,000円と算定された場合は200円の差額が、追徴課税の対象です。海外の関連会社では追徴課税された分の税金が自動で還付される訳ではないため、二重課税を受けるリスクがあります。
なお、上記の例で追徴課税される際に、親会社の悪意の有無は問われません。租税回避の狙いがなかった場合も税務当局から問題点の指摘を受ければ、追徴課税の対象です。
また、関連会社のある国でも移転価格税制を取り入れている場合は、海外においても租税回避を追求されるリスクがあります。親会社と関連会社がそれぞれ追徴課税を受けた場合はグループとしての損失が膨らみ、経営に支障が生じる事態にもなりかねません。
1-2.独立企業間価格の算定方法
日本における独立企業間価格の算定では、基本三法(独立価格比準法・再販売価格基準法・原価基準法)もしくはその他の方法の中から個々の事情に応じて独立企業原則に一致した最も適切な方法を選択します。以下は、基本三法の概要です。
独立価格比準法 | 海外の関連会社との取引と第三者との取引における価格を比較し、妥当性を検証する方法 |
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再販売価格基準法 | 海外の関連会社から仕入れた商品を第三者に再販売する際の売上総利益率から、妥当性を検証する方法 |
原価基準法 | 海外の関連会社との取引と第三者との取引の売上原価に対する売上総利益率を比較し、価格の妥当性を判断する方法 |
比較対象取引の選定にあたっては、以下の要素を勘案することとされます。
- (1)棚卸資産の種類、役務の内容等
- (2)売手又は買手の果たす機能
- (3)契約条件
- (4)市場の状況
- (5)売手又は買手の事業戦略
引用:国税庁「○租税特別措置法関係通達(法人税編)関係」引用日2023/3/24
上記を勘案して比較対象とする取引を見つけることは難易度が高く、実務上は多くの場合、「その他の方法」にあたる「取引単位営業利益法」で独立企業価格を計算します。取引単位営業利益法とは、海外の関連会社との取引と第三者との取引における営業利益率を比較し、独立企業間価格を計算する方法です。取引単位営業利益法で利用する「営業利益率」は1種類ではなく、売上高営業利益率・総費用営業利益率などを指標とします。
取引単位営業利益法以外の「その他の方法」として、「利益分割法」「ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)」の選択が可能です。
利益分割法 | 海外の関連会社との取引によって得られた利益を寄与度に応じて分割し、独立企業間価格を算定する方法 |
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ディスカウント・キャッシュ・フロー法 | 海外の関連会社との取引から将来的に発生する利益を予想し、合理的な割引率をもとに現在価格を算出して、独立企業間価格を推測する方法 |
上記のいずれを利用するかによって必要な情報・会社の負担・会計処理方法は変化するため、専門家にも相談した上で、適切なものを選択しましょう。
2.移転価格税制の対象
移転価格税制は中小企業を含めて、国外関連者と国外関連取引を行うすべての法人が対象です。国外関連者とは、対象の法人との間に50%以上の株式などの保有関係・実質的な支配関係などがある海外の法人を意味します。
ただし、上記の条件を満たさなくても、「特定事実」が存在することにより、実質支配関係があると判断される法人は、国外関連者とみなされる点に注意しましょう。たとえば株式を50%保有している会社と執行役員が同じ外国法人は、国外関連者に該当します。
以下は、「国外関連者に該当するか」を判断するために参考にされ得る書類です。
- アニュアルレポート
- 有価証券報告書
- 資本関係図
- 役員名簿
- 稟議書
上記の他には、出向辞令などの内部書類をもとに、「国外関連者に該当するか」が判断されることもあります。
国外関連取引とは、日本の法人が国外関連者との間で行う資産の販売や購入、役務提供などです。国外関連者に決まった価格で販売することを前提に第三者と自社が行う取引も、「みなし国外関連取引」と判断される可能性があります。自社で仕入れることを前提として第三者に国外関連者の商品を購入させる取引も移転価格税制の適用を受けるケースがあるため、注意しましょう。
3.移転価格税制への対応が必要なケース
子会社を設立して海外進出を図ったり、多国籍企業として事業展開することを目指したりする場合には、移転価格税制対策が必要になる可能性があります。移転価格税制への対応が必要になる代表的なケースと注意点を以下で把握し、いざその時が来ても困らないように準備しましょう。
3-1.海外の子会社と取引をする
海外に製造拠点となる子会社を設立し、取引をする場合は、移転価格税制への対応が必要です。海外での販売を担当する子会社を設立し、日本の会社から製品を仕入れさせる場合も同様に、移転価格税制を意識した対応が必要でしょう。
3-2.海外子会社に利益を付け替える
日本の法人税率は海外と比較して高いため、「子会社の利益配分を高めて、節税を図りたい」と考える経営者もいるでしょう。しかし、移転価格税制に基づき海外子会社に利益配分をするためには両社が負担するリスク・役割・利用する資産などをもとに、割合を検討する必要があります。設定した配分が「実態を伴わない利益操作」とみなされた場合は追徴課税を受けるリスクがあるため、事前の対応が不可欠です。
3-3.拠点を海外に移転する
日本の会社が海外拠点を設置する際には多くの場合、国内で培った製造ノウハウを流用します。国内で培った製造ノウハウに対する適切な対価を受け取らなければ移転価格税制に抵触し、追徴課税を受けかねません。
海外に販売拠点として子会社を設置する場合は、取引価格の妥当性の事前確認が不可欠です。取引価格が移転価格税制に抵触すると追徴課税を受けて、グループとしての損失につながる恐れがあります。
まとめ
移転価格税制とは、海外に関連会社がある企業が不正に利益を移動させないように導入された制度です。第三者と取引した場合の価格の相場である「独立企業間価格」との差額が追徴課税となり、場合によっては二重課税を受けるリスクもあります。
税金が増すと経営に支障が生じる事態にもなりかねません。海外に製造拠点を移す場合や海外の子会社との取引を行う際は、税金に詳しい専門家の力を借りながら、移転価格税制の対応を行いましょう。
監修者情報
税理士法人スマッシュ経営
杉田 透(すぎた とおる)
資格:税理士
経歴
- 1959年
- 愛知県豊田市生まれ
- 1980年
- 名古屋国税局採用
- 2010年
- 法人税担当統括官
- 2020年
- 名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
所属税理士となる