税務情報

2023.02.22

2023年度の税制改正大綱を解説!相続時精算課税の変更点など

2022年12月16日に、2023年度(令和5年度)の税制改正大網が公表されました。

税制改正大網は、いわば企業の経営者や個人事業主のみならず、すべての方が知っておかなければならない税金のルールをまとめたものです。改正が成立した法律は2023年4月から徐々に施行されるため、具体的にどのような点に変更が加えられたかをしっかり把握しておきましょう。

そこで今回は、税制改正大網の概要と2023年度の税制改正によって改正される予定の項目を徹底解説します。2023年度の税制改正によって何が変わるのかを知りたい・利用できる節税制度がないか知りたいという方は、ぜひ参考にしてください。

 

1.そもそも税制改正大綱とは?

そもそも税制改正大網とは、簡単に言うと「翌年度の税制改正点や新たな税制の方針について取りまとめたもの」です。

人々の生活において、消費税・所得税などさまざまな形で納められている税金は、日々変化する社会情勢などに応じて毎年その制度の見直し・改正が行われます。各省庁から提出される「税制改正に関する要望」にもとづき、与党の税制調査会が中心となって翌年度以降における税制の改正方針を税制改正大網としてまとめます。つまり、税制改正大網は税に関する法律改正のたたき台と言えるでしょう。

そして、政府は毎年12月中に閣議決定された翌年度分の税制改正大網にもとづき税制改正法案を作成し、翌年1月〜2月の通常国会に提出します。成立した法案は、4月以降から徐々に施行されることが基本です。

なお、2022年度(令和4年度)における税制改正大網は、下記の記事で詳しく紹介しています。

2022年の税制改正大綱を解説!法人税・個人所得課税の改正点も

 

2.2023年税制改正大綱の大きな変更点

2023年度の税制改正大綱では、相続税・贈与税が大幅に変更されることとなります。具体的には、相続時精算課税・相続税の生前贈与加算において変更が加えられています。

ここからは、相続時精算課税・相続税の生前贈与加算においてどのような点が変更されるのかを確認していきましょう。

出典:財務省「令和5年度税制改正の大綱」

 

2-1.相続時精算課税

相続時精算課税にて新たに「年110万円の基礎控除」枠が加わる予定です。これにより、贈与者が相続時精算課税を選択した方へ2024年1月1日以降に贈与する際、年110万円までであれば相続財産に加算されないこととなり、贈与税・相続税の非課税措置が適用されます。贈与税の申告や届出書の提出・必要書類の保存も不要となるため、受贈者側の手続き・管理が楽になる点も大きなポイントと言えるでしょう。

また、相続時精算課税適用者が贈与によって取得した不動産(土地・建物)が、贈与日から相続申告期限までの間に災害などによる被害を受けた場合、相続財産に加算される不動産の価額から被害相当額を控除することも可能となります。なお、この改正は2024年1月以降に発生した災害によって被害を受けた場合に適用されることも覚えておきましょう。

 

2-2.相続税の生前贈与加算

相続時精算課税とともに、相続税の生前贈与加算においても大幅に改正される予定です。これまで、暦年課税を活用して行った生前贈与の加算期間(持ち戻し期間)は3年以内でしたが、2024年1月1日以降の生前贈与加算期間が7年に引き延ばされることになります。

そもそも生前贈与加算とは、被相続人の死亡日以前の一定期間内に受けた贈与において、相続人の相続税課税価格に加算されるという制度です。

つまり、2024年から毎年コツコツと生前贈与をし、2031年に亡くなった場合、死亡日以前7年間(2024年〜)に贈与した財産はすべて生前贈与の加算対象となります。また、死亡日以前の3年間に贈与された財産の扱いは従来と同様ですが、延長分となる4年間に贈与された財産については、全体のうち100万円を控除した残高が加算されます。これにより、契約書の記録や管理に関する負担が軽減する点もポイントです。

なお、上記の改正は2024年1月1日以後に贈与によって取得する財産にかかる相続税について適用されます。

 

3.2023年税制改正大綱での法人税課税及び消費税の変更点

2023年度税制改正大綱では、相続税・暦年課税制度といったすべての人を対象としたものだけでなく、法人を対象とした「オープンイノベーション促進税制」「研究開発税制」「中小企業経営強化税制」も大きく見直されています。

ここからは、各税制における変更点を具体的に解説します。

 

3-1.オープンイノベーション促進税制

オープンイノベーション促進税制とは、内部・外部の資源やリソースの活用によって組織内の改革を目指してスタートアップ企業の新規発行株式を取得する場合、取得価額の25%を所得から控除できるという制度です。

オープンイノベーション促進税制の見直しが行われています。主なポイントは、下記の通りです。

  • 一定の要件を満たせば、発行済株式の取得に対しても25%の所得控除の適用対象となり、M&Aも所得控除の対象となる
  • 対象となる取得価額の上限が100億円から50億円に引き下げられる
  • 取得から5年以内に一定の成長要件を満たさなかった場合は、所得控除分を一括取戻し益金算入することとなる

出典:経済産業省「オープンイノベーション促進税制」

出典:経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について」

 

3-2.研究開発税制

研究開発税制とは、研究開発を行う企業を対象に、試験研究にかかった金額の一部を法人税額から控除できる制度です。

研究開発税制の主な改正ポイントは、下記の通りです。

  • 試験研究費の増減割合に応じて控除上限額が変動する制度を導入するとともに控除率が見直されました
  • すでに有するビッグデータを用いたサービス開発も対象となります
  • 性能向上を目的としない設計・試作は、試験研究費の対象から除外されます
  • 控除上限・控除率の上乗せ措置の適用期間を3年間延長されます

出典:経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について」

 

3-3.中小企業経営強化税制

中小企業経営強化税制とは、経営力向上計画にもとづき一定設備を取得した際に、即時償却または取得価額の最大10%の税額控除が受けられるという中小法人・中小事業者向けの優遇制度です。

中小企業の経営力を強化し、生産性の向上やDXへの投資を後押しするべく、中小企業経営強化税制の適用期限が2年間延長が盛り込まれています。

 

3-4.インボイス制度

中小企業者や小規模事業者に向けた さまざまな負担軽減制度が盛り込まれました。中でも注目しておきたいのが、これまで免税事業者だった者がインボイス発行事業者となった場合、納税額を売上税額の2割に軽減するという措置が3年間適用されることです。

他にも、納税負担・事務負担の軽減につながる措置が講じられています。

出典:経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について」

<関連トピックス>
インボイス制度とは?2023年の導入で変わること・対応方法を解説

 

4.2023年税制改正大綱でのNISA制度の変更点

個人の資産運用を後押しするための税制優遇制度「NISA」においても、拡充・恒久化が行われます。

これまで、NISAは種類によって投資可能期間や限度額、さらに非課税保有期間が異なっていました。しかし、いずれの種類も非課税保有期間の上限が撤廃され、2024年1月1日以降は無期限となります。

また、投資枠が拡大する点も大きな改正ポイントです。

  税制改正前 税制改正後
成長投資枠(一般NISA) 年間120万円
(トータル5年間で600万円)
年間240万円
つみたて投資枠(つみたてNISA) 年間40万円
(トータル20年間で800万円)
年間120万円

投資可能期間も無期限となるため、「無限に非課税で投資できる」と考えがちですが、非課税限度枠(1,800万円)が定められている点に注意してください。

これまでNISAは一般NISA・つみたてNISA・ジュニアNISAの3種類がありましたが、ジュニアNISAが2023年末に終了することに伴い、一般NISAとつみたてNISAを1つにまとめた新NISAが創設されます。新NISAでは、一般NISAのような「成長投資枠」とつみたてNISAのような「つみたて投資枠」の併用が可能です。

このようにNISA制度は大きく変化します。老後に備えて資産運用・資産形成をしておきたいという方は、新NISAの利用を検討してみてはいかがでしょうか。

出典:金融庁「令和5(2023)年度税制改正について -税制改正大綱における金融庁関係の主要項目-」

 

まとめ

税制改正大網とは、「翌年度の税制改正点や新たな税制の方針について取りまとめたもの」です。2023年度においては、相続税や贈与税についてのみならず、法人の税金に関する制度やNISA制度においてあらゆる税制改正が予定されています。

税制措置の改正内容を理解することは、税金に関する自身への影響や適切な節税方法を知ることにつながります。新たな税金に関するルールに慌てず対応できるようにするためにも、あらゆる最新情報をチェックしておくようにしましょう。

監修者情報

杉田 透(すぎた とおる)

税理士法人スマッシュ経営

杉田 透(すぎた とおる)

資格:税理士

経歴

1959年
愛知県豊田市生まれ
1980年
名古屋国税局採用
2010年
法人税担当統括官
2020年
名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
所属税理士となる

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