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2023.01.17

所得拡大促進税制とは?賃上げ促進税制との違い・メリットも詳しく解説

中小企業者などが雇用者給与等支給額を前年度より増加させた場合、一定の要件を満たしていればその増加額の一部を法人税または所得税から税額控除を行えます。この制度のことを、「所得拡大促進税制」と言います。

従業員は自身の努力や利益が給与として反映され、雇用主は給与の増加額に応じた税額控除を受けられるだけでなく、従業員の雇用を守ることもできるため、双方にとってメリットのある制度と言えるでしょう。

また、所得拡大促進税制は令和4年度の税制改正によって改正され、現在では「賃上げ促進税制」という名称で引き継がれています。当記事では、所得拡大促進税制について、現状の制度概要や適用要件、メリットを挙げながら詳しく説明します。

 

1.所得拡大促進税制とは?

所得拡大促進税制とは、青色申告を提出している中小企業者が、国内雇用者に支給する給与額を前年度より1.5%以上増加させた場合、その増加額の一部(最大25%)を法人税額または所得税額から税額控除できる制度のことです。「所得拡大税制」と略称されることもあります。なお、当制度は中小企業者向けの税制であり、大企業の場合は中小企業・大企業いずれも適用対象法人となる「人材確保等促進税制」の活用が一般的でした。

所得拡大促進税制は、従業員の給与アップを行った中小企業等のインセンティブ機能を強化するべく、平成25年度税制改正にて創設されました。その後、令和4年度税制改正においては所得拡大促進税制の見直しが行われ、要件緩和により適用対象企業が増加しました。

また、この改正・見直しにより、所得拡大促進税制は「賃上げ促進税制」として引き継がれます。

<関連トピックス>
「2022年の税制改正大綱を解説!法人税・個人所得課税の改正点も」

 

1-1.所得拡大促進税制と賃上げ促進税制の違い

前述の通り、令和4年度の税制改正によって所得拡大促進税制は賃上げ促進税制として引き継がれています。賃上げ促進税制は2022年4月1日より適用され、所得拡大促進税制よりも内容が拡充されました。

制度概要に大きな変更はなく、いずれも平均給与等支給額を前年度より一定額以上アップさせた企業に対して一部の税額控除を行う制度ですが、税額控除の対象要件と適用年度が異なる点に注意が必要です。

所得拡大促進税制
対象要件

【基本要件】
雇用者全体の給与支給額が前年比1.5%以上増額で15%の税額控除

【上乗せ要件】

  • 「雇用者全体の給与支給額が前年比2.5%以上増額」「教育訓練費が前年比10%以上増加」で10%の税額控除

→税額控除最大25%(控除上限額法人税額の20%)

適用時期
(適用事業年度)
2021年3月31日までに開始される各事業年度(個人事業主は2021年までの各年)
賃上げ促進税制
対象要件

【基本要件】
雇用者全体の給与支給額が前年比1.5%以上増額で15%の税額控除

【上乗せ要件】

  • 雇用者全体の給与支給額が前年比2.5%以上増額で15%の税額控除
  • 教育訓練費が前年比10%以上増加で10%の税額控除

→税額控除最大40%(控除上限額法人税額の20%)

適用時期
(適用事業年度)
2022年4月1日から2024年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主は2023年から2024年までの各年)

出典:中小企業庁「中小企業向け所得拡大促進税制ご利用ガイドブック」

出典:中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」

このように、新たな賃上げ促進税制では税額控除率が高まり、上乗せ措置については要件緩和が行われています。

 

2.所得拡大促進税制の適用要件

現行の制度である賃上げ促進税制について理解するためには、旧制度であり、かつ制度のベースとなる所得拡大促進税制についてもきちんと把握しておいたほうがよいでしょう。

ここからは、所得拡大促進税制の適用要件に関して、中小企業等の要件・給与等の要件を挙げながら詳しく説明します。

 

2-1.中小企業等の要件

所得拡大促進税制の対象となる「中小企業者等」は、青色申告を行う会社のうち、下記のような会社を指します。

  • 資本金額または出資金額が1億円以下の法人
  • 資本または出資を有しない、常時使用従業員数が1,000人以下の法人
  • 常時使用従業員数が1,000人以下の個人事業主
  • 協同組合等(農業協同組合・中小企業等協同組合など)

なお、前3事業年度の所得金額の平均が15億円を超える法人、いわゆる「適用除外事業者」は、たとえ上記の項目を満たしていても所得拡大促進税制の対象にはなりません。

加えて、上記の項目を満たす大規模法人から1/2以上の出資を受ける法人・2以上の大規模法人から2/3以上の出資を受ける法人も同様に、所得拡大促進税制の対象からはずれることに注意が必要です。

出典:中小企業庁「中小企業向け所得拡大促進税制ご利用ガイドブック」

 

2-2.給与等の要件

所得拡大促進税制が指す「給与等」とは、下記のようなお金を指します。

  • 給料・賃金・俸給・歳費・賞与
  • 所得税法に規定する給与所得

所得税法に規定する給与所得とは、給料やボーナスなどの性質を有する給与のことです。分かりやすく言うと、基本給や賞与とは別に支給する役職手当・残業手当などの各種手当についても、所得拡大促進税制においては原則「給与」とみなされます。

しかし、退職者に渡す退職金など「給与所得となるもの」に含まれていない所得については、給与としてみなされません。

出典:中小企業庁「中小企業向け所得拡大促進税制ご利用ガイドブック」

出典:国税庁「No.2508 給与所得となるもの」

 

3.所得拡大促進税制や賃上げ促進税制のメリット

中小企業者が所得拡大促進税制を活用することで、従業員の雇用環境の改善が期待できます。所得拡大促進税制を活用するための事前申請は特に必要ないため、要件を満たしている場合は積極的に制度を利用してはいかがでしょうか。なお、所得拡大促進税制を活用する際は、確定申告の際に必要書類を添付する必要があることに留意しておきましょう。

最後に、所得拡大促進税制・賃上げ促進税制を活用するメリットを3つ紹介します。

 

3-1.法人税の優遇措置を受けられる

所得拡大促進税制の活用における最大のメリットは、法人税の優遇措置を受けられるという点です。

所得拡大促進税制を活用して従業員に支給する給与額を増やし、増加分の一部を法人税から税額控除できれば、法人税の実質的な負担が軽減し、節税に大きくつながります。節税できたお金は、設備投資や開発費などに回したり、内部留保としたりするなど自由に選択できます。

「頑張ってくれている継続雇用者の給与を上げたいものの、経営的に厳しくてできない」という中小企業でも、所得拡大促進税制によって法人税の優遇措置を受けられれば、従業員の給与アップのハードルも低くなるでしょう。

 

3-2.負担を減らしながら優秀な人材を確保できる

所得拡大促進税制の活用におけるもう1つのメリットが、経済的な負担を減らしながら優秀な人材を確保できるという点です。

少子高齢化や働き方の多様化など、あらゆる要因によって人材採用は買い手市場となっています。優秀な人材は、給与の高さをはじめとした企業の待遇をチェックし、よりよい待遇を受けられる企業への入社を望んでいます。

所得拡大促進税制の活用によって、法人税などの負担を減らしながら労働者の給与を上げている企業は、優秀な人材の目に留まるでしょう。また、すでに優秀な人材が自社にいる場合は、雇用の維持にもつながります。このように、所得拡大促進税制の活用は優秀な人材の確保・維持にもよい影響を与えることを覚えておきましょう。

 

3-3.社員のモチベーションアップにつながる

毎月得られる給与をモチベーションに、日々仕事に勤しむ社員は多くいます。所得拡大促進税制を活用して社員の給与を引き上げることによって、社員のモチベーションアップが大きく期待できる点もメリットと言えるでしょう。

社員のモチベーションが向上すれば、社員一人ひとりのさらなる成果も期待でき、上げた成果は結果として会社の利益となります。

競合他社と比較して給与が高い・社員のモチベーションが高い・実際に多くの成果を上げている、といった企業は求職者にとっても魅力的に映ることから、ここでも優秀な人材の確保につながってきます。まさに、好循環を生み出す状態となるでしょう。

 

まとめ

所得拡大促進税制とは、従業員の給与アップを行った中小企業のインセンティブ機能強化を目的に、平成25年度税制改正で創設された制度です。青色申告書を提出する中小企業が、雇用者に支給する給与額を前年度より増加させた場合は、増加額の一部を法人税または所得税から税額控除できます。

所得拡大促進税制は、企業・社員双方にメリットを与える魅力的な制度と言えます。まずは、自社が所得拡大促進税制の適用対象となっているかを確認してみてはいかがでしょうか。

なお、令和4年度の税制改正によって、2022年4月1日から所得拡大促進税制は「賃上げ促進税制」という名称で引き継がれています。賃上げ促進税制については下記の記事で詳しく説明しているため、ぜひ併せてご覧ください。

賃上げ促進税制について詳しく解説!令和4年度税制改正による変更点も

監修者情報

鈴村 明一(すずむら あきかず)

税理士法人スマッシュ経営

鈴村 明一(すずむら あきかず)

資格:税理士

経歴

1945年
愛知県豊田市生まれ
1964年
名古屋国税局採用
1988年
法人税担当統括官
1995年
法人税担当特別調査官
2005年
名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
社員税理士となる
2009年
税理士法人スマッシュ経営
代表税理士就任
政治資金監査人登録

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