相続情報

2023.07.26

相続対策の方法は?相続税・争族の対策と税理士の選び方も解説

もしものときを考え、残された家族・親族のために相続対策をしておくことは非常に大切です。しかし、一言で「相続対策」と言っても対策しなければならない事柄は複数あり、特に「相続税」への対策を行おうとすると、税金に対する専門的な知識も必要となります。

当記事では相続対策の方法について、「相続税対策」と「争族対策」の2つの観点から詳しく解説します。もしものとき、スムーズに相続が進み税の負担が軽くなるよう、今のうちから備えておきましょう。

 

1.相続対策とは?

相続対策とは、万が一自分が亡くなった場合に備えて、相続が円満な形で進められるように対策することです。相続できる財産を残す人を「被相続人」、財産を相続する人は「相続人」と呼びます。

相続対策は大きく分けて、相続税対策と争族対策の2つがあります。

 

1-1.相続税対策

相続税対策とは、相続税を軽減させるための節税対策です。

そもそも相続税は、被相続人が所有していた財産を、相続人が相続した場合に発生する税金です。財産の相続があれば相続税は必ず発生するわけではなく、下記のように相続税の課税対象となる財産は決まっています。

●課税対象となる財産の主な種類

  • 土地や建物、株式、現金などの財産
  • 生命保険金や死亡退職金などのみなし相続財産
  • 被相続人から相続人へと生前贈与された財産
  • 被相続人から相続時精算課税制度を利用して贈与された財産

一方、仏壇・墓地といった祭祀財産などは相続税の課税対象にはなりません。

相続額の計算は下記の手順で行います。

1 相続財産の総額から基礎控除・債務控除・生命保険金や死亡退職金の非課税限度額などを差し引き、課税遺産総額を算出する
2 課税遺産総額を法定相続分で按分し、各相続人の課税遺産額を算出する
3 各相続人の課税遺産額に相続税の税率をかけて合計し、相続税の総額を算出する
4 相続税の総額を実際の相続割合で按分し、各人の相続税額を算出する
5 各人の相続税額から各種税額控除の額を差し引き、実際に納付する相続税額を算出する

相続税にはさまざまな控除制度があり、相続税が発生しないケースもあります。

 

1-2.争族対策

争族対策とは、相続人が複数いる場合に、相続人の間で遺産分割について紛争が起こらないように対策することです。相続人同士は家族・親族であるケースが多く、争族が起こると親しい間柄にも大きな亀裂が生じます。

争族が起こりやすいケースを2つ紹介します。

●亡くなった親の介護を、子1人のみがしていた

親の介護をしていた子と他の子が、遺産相続額で揉めるケースです。介護をしていた子は遺産を多くもらいたい、他の子は法定相続分のとおりに分けるべき、とそれぞれ主張をして争族が起こります。

●遺産が自宅のみである

遺産分割のために自宅を売却するか、居住用として使用を続けるかで争族が起こります。自宅を売却する場合も、いつまでに・いくらで・誰に売却するかで揉める可能性があるでしょう。

自分の死後も良好な関係でいてもらうには、争族対策が必要です。

 

2.相続税対策の方法4つ

相続税対策にはいくつかの方法があります。それぞれの方法で相続にかかる税負担がどの程度軽減できるか、利用できるかを検討して、適切な方法を取りましょう。

相続税を軽減するための具体的な方法を4つ解説します。

 

2-1.相続税の控除制度を確認しておく

相続税の負担は、控除制度を適切に利用することで大幅に軽減できます。

主な控除制度は下記の4つです。

・基礎控除

基礎控除とは、相続財産の総額から一定額を差し引ける制度です。下記の計算式で算出した金額は、相続税の課税計算から控除されます。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

少なくとも相続財産の総額が3,600万円以下の場合は、全額が基礎控除の対象となって相続税は発生しません。

・配偶者の税額の軽減

被相続人が配偶者へと相続させる財産について、相続税額の軽減が適用される制度です。税額が軽減される範囲は下記の基準で決められています。

  • (1)1億6,000万円
  • (2)配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額
  • のいずれか多い金額

・未成年者控除

未成年者控除は、未成年者が満18歳になるまでの年数に応じて、1年につき10万円の税額控除が認められる制度です。なお、相続開始時の年齢は満年齢として計算します。

・障害者控除

障害者控除は、障害者が満85歳になるまでの年数に応じて、1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)の税額控除が認められる制度です。なお、未成年者控除と同様に、相続開始時の年齢は満年齢として計算します。

 

2-2.生前贈与を活用する

生前贈与とは、財産を持っている個人の存命中に、別の個人へと財産を分け与えることです。

生前贈与は相続ではなく贈与であるため、贈与した財産に対しては相続税ではなく贈与税が課税されます。相続税と贈与税はどちらも最高税率が55%であるものの、生前贈与には課税額を抑えられる仕組みがあり、相続税対策として有効な方法です。

生前贈与で財産を受け取る受贈者は、贈与税の課税方法を下記の2通りから選択できます。

暦年課税
1月1日から12月31日までの1年間で、贈与者から受け取った贈与額の合計が110万円を超えた場合に、超過部分に対して贈与税が課税されます。1年間に贈与額の合計が110万円以下の場合には贈与税はかかりません。

出典:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」

相続時精算課税制度

60歳以上の父母や祖父母が、18歳以上の子や孫に贈与する場合に、2,500万円の特別控除が受けられる制度です。2,500万円を超過した部分については一律20%の贈与税がかかります。

相続時精算課税制度を利用する場合は、税務署への届出が必要です。

出典:「No.4103 相続時精算課税の選択」

贈与を細かく行う場合は暦年課税、一括で贈与する場合は相続時精算課税制度が適しています。

 

2-3.生命保険を活用する

被保険者の死亡時に支払われる生命保険金は、相続税法においては「みなし相続財産」として相続税が課税される対象となります。

しかし、生命保険金の相続には非課税枠があり、相続税対策として生命保険を活用することが可能です。

生命保険金の非課税枠は、下記の金額が利用できます。

生命保険金の非課税限度額=500万円×法定相続人の数

例として夫の生命保険金が2,000万円であり、妻と子3人が相続人となる場合には、非課税枠が500万円×4=2,000万円となって相続税がかかりません。

相続税の基礎控除額を超過する部分の財産については、死後に生命保険金として相続人が受け取れる形にすると、相続税の軽減ができます。

なお、生命保険金の非課税限度額を利用するには、被相続人が契約者として保険料の支払いを行わなければなりません。

仮に相続人が生命保険の契約者として保険料を支払った場合、被相続人の死亡で支払われる生命保険金は「相続人が支払ったお金を相続人が受け取る」形となり、相続税の非課税枠も利用できません。

 

2-4.不動産を活用する

購入・取得した不動産を相続させる方法も、有効な相続税対策です。

相続財産の総額を計算する際は、現金そのものよりも、土地や建物のほうが相続税評価額が低くなります。相続における土地や建物の評価方法では、実際の売買取引が成立する価格よりも安く評価することが原則であるためです。

土地や建物を相続税路線価・固定資産税評価額で計算し、約7~8割程度に引き直した結果を評価額とすることにより、相続財産の金額を抑えられます。

また、不動産をアパート・マンションで使用して人に賃貸している場合は、さらに相続税評価額が低くなります。賃貸に出している土地や建物は自由に活用しにくく、資産価値が低下していると見なされる点が理由です。

賃貸に出している場合は、一般的に下記の計算式によって算出される割合で相続税評価額が減少します。

賃貸不動産の評価減割合=借家権割合×賃貸割合

出典:国税庁「No.4602 土地家屋の評価」

アパートの入居率が100%であれば賃貸割合は100%となり、不動産全体が自用地である場合と比べて相続税評価額が借家権割合の分だけ減少します。

自身の財産として不動産を購入したり賃貸物件を運用したりして、自分の死後には配偶者や子どもに相続させれば、相続税を軽減可能です。

 

3.争族対策の方法3つ

争族対策では、故人となる被相続人の遺志を表明したり、相続人一人ひとりの権利を明確にしたりすることが重要です。

家族・親族同士でトラブルにならないためにできる争族対策の方法を、3つ紹介します。

 

3-1.遺言書を作っておく

財産の相続について被相続人自身の考えがあるときは、必ず遺言書を作っておきましょう。遺言書は遺言者(被相続人)の意思が記載された文書であり、遺産相続の方法や相続割合などは遺言書の内容が優先されます。

遺言書は主に下記の3種類があり、それぞれ作成にかかる手間や有効性が異なります。

自筆証書遺言

遺言者が自筆で作成する遺言書です。思い立ったときにすぐ作成でき、費用がほとんどかからず、秘密性も高いというメリットがあります。

ただし、内容の不備によって遺言書が無効となったり、そもそも死後に遺言書が発見されなかったりするケースもあります。

公正証書遺言

公証役場において証人2人以上の立ち会いのもと、公証人に作成してもらう遺言書です。作成した遺言書は公証役場で保管されます。遺言書が無効化されたり、紛失したりするリスクを防止できます。

公証人と証人への費用支払いが発生するほか、遺言書の内容を第三者が知ることで秘密性が低下する点はデメリットです。

秘密証書遺言

作成した遺言書を公証役場に持参し、証人2人以上の立ち会いのもと、遺言の作成を公証人に承認してもらう形式です。遺言書の存在を証明しつつ、内容は秘密にできます。

遺言書作成に公証人はかかわらず、内容の不備による無効化のリスクがある点はデメリットです。保管も個人で行う必要があるため、紛失などには注意してください。

 

3-2.家族信託を活用する

家族信託とは、自分が所有する財産を信頼できる家族に託し、自分の代わりに財産の管理などを任せる仕組みです。財産の管理・処分にかかわる権限を1人の家族に集中できて、争族を防ぎやすくなります。

家族信託を活用する際は、下記に挙げる4つのポイントを明確にしましょう。

  • どの財産を信託するか
  • どのような目的で家族信託を利用するか
  • 託す家族(受託者)は誰にするか
  • 財産から利益を得る人(受益者)は誰にするか

4つのポイントを決めた後は、財産を託す本人(委託者)と受託者との間で信託契約を交わします。契約は口頭でも有効となるものの、争族対策として活用する場合は公正証書による信託契約書の作成がおすすめです。

また、信託契約内で財産承継の順位を決めることにより、自分の死後に信託財産を取得する家族の指定ができます。遺言書のように財産を引き継がせたい家族の順位を伝えておけるため、遺産分割の協議で争族が発生する可能性を抑えられるでしょう。

 

3-3.遺産整理をしておく

遺産の生前整理をしておくことも、おすすめの争族対策です。

遺産の生前整理とは、遺産相続に備えて自分の身の回りの物品などを整理する行為です。生前整理は自分の所有している財産を見つめ直す機会となり、相続させたい財産には何があるかを明確にできます。

争族対策として生前整理を行う際は、主だった財産について争族が発生する可能性があるかどうかを検討することが大切です。

例として、住宅や自動車のように早期の現金化が難しい財産は、争族が発生する可能性が高いと言えます。争族の発生が予期できる財産を見つけたときは、遺言書を作ったり、家族信託で処分方法を決めたりして争族回避をしましょう。

遺産の生前整理をしておくと、自分の死後に行われる遺産整理の手間が減り、負担を軽減できます。

 

4.相続対策をするときの注意点

相続対策をすると相続税軽減や争族抑止ができるものの、いくつかの注意点もあります。トラブルに発展するケースもあるため、注意点を押さえて相続対策を進めましょう。

最後に、相続対策における3つの注意点を解説します。

 

4-1.老後資金とのバランスを考える

相続対策には生前贈与や生命保険・不動産の活用、家族信託の利用など、自分が現在所有している財産を贈与したり使用したりする方法が存在します。相続税対策や争族対策は重要であるものの、選択した方法によって老後資金を減らしすぎないように注意してください。

老後の生活に必要なお金は、1か月あたり約15万~25万円と言われています。相続対策を行う際は、自分の健康状態や家族・親族との関係を考慮した上で、老後資金に十分な余裕を持てるようにしましょう。

また、所有している財産の総額によっては、基礎控除などの控除分が差し引かれることで相続税がかからないケースもあります。無駄な相続対策を選択しないように注意しつつ、老後資金とのバランスを考えた相続対策を取ることが大切です。

 

4-2.相続人に遺留分があることを考えておく

遺産相続では、被相続人の遺言書に記載された内容が優先されます。

しかし、遺言書によって特定の相続人のみに財産を残そうとしても、遺言書の通りに執行されるとは限りません。相続人には遺留分があり、遺言書の内容によっては遺留分を請求して取り戻せるためです。

遺留分とは、一定範囲の法定相続人に認められている、遺産相続における最低限の割合です。遺留分は民法で規定されている相続人の権利であり、遺言書によって相続人の指定をしても、他の相続人が持つ遺留分を奪うことはできません。

第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

引用:e-Gov法令検索「民法」/引用日2023/6/21

遺留分を請求できる一定範囲の法定相続人とは、被相続人から見て下記の関係性にある相続人を指します。

  • 配偶者
  • 父母や祖父母などの直系尊属

なお、被相続人の兄弟姉妹も法定相続人ではあるものの、遺留分の請求は認められていません。

遺留分を考慮せずに遺言書を作成すると、遺産相続に不公平感を持った相続人によって遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。争族を防ぐためにも、相続人に遺留分があることを考えて遺言書などを作成しましょう。

 

4-3.税理士に相談する

効果的に相続対策を行うには、自分が所有する財産でかかる相続税の額を把握し、対策方法ごとの有効性を検証することが重要です。相続税計算は控除などを考える必要があり、計算過程が複雑化しやすいため、税の専門家である税理士に相談しましょう。

税理士への相談では、相続税対策に強い税理士を探すことがおすすめです。相続は発生頻度の少ない案件であり、税理士によっては実績に乏しく、相続税について詳しくないケースもあります。相続税対策で失敗しないためには、実績が豊富な税理士に相談したほうが安心です。

相続税対策に強い税理士は、下記のポイントを押さえることで探し出せます。

  • 専門の税理士が在籍しているか
  • 実績件数が豊富か
  • 税理士報酬は適切な価格になっているか
  • 相談者に寄り添った対応をしてくれるか
  • 相続した後の手続きもフォローしてもらえるか

気になる税理士を見つけたら、ホームページをチェックしたり、無料相談を利用したりしましょう。

5つのポイントを満たす税理士であれば、自分や家族・親族にとって最適な相続税対策のサポートが受けられます。

 

まとめ

相続をスムーズに進めるためには、相続税を軽減させる「相続税対策」と、相続人による遺産分割時に争わずに済むようにしておく「争族対策」の2つの対策を講じておくことが大切です。「争族対策」には遺言書の作成や遺産の生前整理などが有効ですが、遺言書は決められた形式を守り、遺留分についても考えながら作成しなければなりません。

相続税を把握し、対策を行うときは税の専門家である税理士に相談しましょう。相続税については専門的な知識が必要なため、実績が十分にある税理士を選ぶのがおすすめです。

監修者情報

森田 光昭(もりた みつあき)

税理士法人スマッシュ経営

森田 光昭(もりた みつあき)

資格:税理士

経歴

1952年
名古屋市生まれ
1976年
名古屋国税局採用
1992年
名古屋国税不服審判所審査官
1995年
資産税担当統括官
1997年
名古屋国税局国税訟務官室主査
1999年
名古屋国税局資産課税調査部門総括主査
2001年
特別国税調査官(評価)
2003年
評価専門官
2008年
名古屋国税局税務相談室相談官
2010年
1級ファイナンシャルプランニング技能士資格取得
宅地建物取引士資格取得
2011年
名古屋国税局税務相談室主任相談官
2013年
評価専門官付調査官
2015年
評価専門官付上席調査官
2017年
資産税審理担当上席調査官
2018年
名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 名古屋オフィス入社

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