相続情報

2023.06.19

会社の引継にかかる税金は?相続税評価額の計算方法も解説

会社を相続するに当たって、「財産の相続はできるのか」「相続には税金がかかるのか」といった不安を感じる人もいるでしょう。会社を引き継ぐには相続税がかかります。引き継ぎの際に発生する相続税は、工夫次第で抑えることが可能です。

当記事では、会社を相続する際にかかる税金について、相続税評価額の計算方法と相続にかかる税金を少なくする方法を紹介します。会社を引き継ぐ予定のある人は、ぜひ当記事を参考にしてください。

 

1.会社の相続とは株式を渡すこと

会社の相続とは、会社の経営権を相続することです。会社の財産は、経営者ではなく会社自体がもつ財産のため、相続できません。
会社経営に関する決定は株主のもつ議決権によって承認され、ほとんどの事項は3分の2以上の賛成で決定します。そのため、会社の相続は後継者に株式を渡すことだと言えます。

株式を相続する人が複数いる場合、株式が分散して後継者が経営支配力を失うのを防ぐため、後継者に株式を集中させる対策が必要です。

後継者に株を集める主な方法は、以下の3つです。

■株式の買取

後継者が経営支配をするには、議決権行使で必要となる3分の2以上の株式取得が必要になります。後継者以外が3分の1以上の株式を保有している場合、買取で後継者のもつ株式の割合を増やす対策が有効です。

■生前贈与による事業承継

事業承継とは、オーナー経営者から後継者へ事業を引き継ぐことです。経営者が株主を兼ねている中小企業では、多くの場合、生前贈与によって経営権と同時に自社株式も引き継ぎます。会社の株式を生前から後継者に贈与すれば、経営権を握るために必要な数の株式を後継者は確実に取得できます。

■遺言書の作成

先代経営者の考えを明示した遺言書は、スムーズな遺産分割と事業継承に役立ちます。
ただし、後継者以外にも相続人がいる場合は遺留分に注意が必要です。遺留分とは、法律で保障された相続分を指します。後継者以外の相続人には株式以外の財産を分与することで、遺留分の問題がないよう配慮しましょう。

 

1-1.会社の株式にかかる税金は?

会社の株式を相続・贈与したときにかかる税金には、「相続税」と「贈与税」があります。それぞれの税率と計算方法は、以下の通りです。

■相続税

死亡した親などから財産を相続した場合に、受け取った財産にかかる税金

相続税の計算方法

株式などの相続財産から債務や葬儀費用、基礎控除額を差し引いた額が、課税対象となる遺産の総額です。相続税は、課税遺産総額を法定相続分で按分した「法定相続分に応ずる取得金額」に税率を乗じて算出します。

下の速算表に当てはめて計算した法定相続人ごとの税額を合計したものが、相続税の総額になります。

【相続税の速算表】

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円を超える金額 55% 7,200万円

引用::国税庁「No.4155 相続税の税率」引用日2023/06/01

■贈与税

個人から無償で財産を取得した場合に、もらった財産にかかる税金

贈与税の計算方法

贈与税額は、1月1日から12月31日までの1年間に贈与により取得した財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた金額(課税価格)に、税率を乗じて算出します。

税率は、「一般贈与財産」と「特例贈与財産」の2種類に区分されます。

  • 一般贈与財産:特例贈与財産以外の贈与財産
  • 特例贈与財産:18歳以上(※)の人が直系尊属から受けた贈与財産

※2022年3月31日以前の場合は20歳以上

課税価格が300万円~4,500万円の場合、特例贈与財産のほうが優遇された税率となります。

【一般贈与財産 贈与税速算表】

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円を超える金額 55% 400万円

引用::国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」引用日2023/06/01

【特例贈与財産 贈与税速算表】

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円を超える金額 55% 640万円

引用::国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」引用日2023/06/01

 

2.会社の株式の相続税評価額

株式を相続・贈与した場合の相続税・贈与税は、株式を換金したときの金額(相続税評価額)をもとに算出します。相続税評価額は、相続税や贈与税の計算で最初に必要になる数値です。

相続税評価額を算出する方法は、上場株式か非上場株式かによって異なります。ここでは、それぞれの計算方法について解説します。

 

2-1.上場株式の場合

上場株式の相続税評価額は、下記4つのうち最も低い価額を適用します。

  • 相続開始日の最終価格
  • 相続開始月の最終価格の平均額
  • 相続開始前月の最終価格の平均額
  • 相続開始前々月の最終価格の平均額

出典:国税庁「No.4632 上場株式の評価」

過去の株価を調べるには、インターネットで閲覧するほか、証券会社に残高証明書を発行してもらう方法があります。

 

2-2.非上場株式の場合

非上場株式(取引相場のない株式)は、相続する人が同族株主等なのか、それ以外の株主なのかで評価方式が区分されます。評価方式は下記の3つです。

  • 純資産価額方式
  • 類似業種比準方式
  • 配当還元方式

■同族株主等:原則的評価方式

同族株主等の場合、原則的評価方式で評価します。原則的評価方式には、「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」の2つがあり、総資産価額や従業員数などにより区分されます。

■純資産価額方式

純資産価額方式とは、評価する時点で会社を売却すると仮定して、1株当たりに分配される金額を基に価額を算出する方法です。会社の総資産から負債や清算で生じる差額(含み益)に対する法人税を差し引いた金額で評価します。

【純資産価額方式の計算式】

1株当たりの純資産価額=(相続税評価額による総資産価額-相続税評価額で計算した負債額-法人税額相当額)÷課税時期の発行済株式数

出典:国税庁「第1節 株式及び出資」

出典:国税庁「取引相場のない株式の評価」

■類似業種比準方式

類似業種比準方式とは、類似業種で上場している会社の株価を基に、評価する会社の配当・利益・純資産の3つを比較して株価を計算する評価方式です。

【類似業種比準方式の計算式】

1株当たりの類似業種比準価額=類似業種の株価×(配当比準割合+利益比準割合+純資産比準割合)÷3×斟酌率(※)

※斟酌率:大企業0.7、中会社0.6、小会社0.5

出典:国税庁「(類似業種比準価額)」

■同族株主以外の株主:特例的な評価方式

同族株主以外の株主が取得した株式の評価には、会社の規模にかかわらず、特例的な評価方式(配当還元方式)を適用します。

■配当還元方式

配当還元方式とは、その株式を所有して得られる年間の配当金額を、10%の利率で還元して元本である株式の価額を算出しようとする評価方法です。その株式に係る年配当金額は1株当たりの資本金額を50円とした場合の金額です。ただし、年配当金額が2円50銭未満となる場合は、2円50銭となります。

出典:国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」

 

3.会社の相続にかかる税金を少なくするには?

株式の相続で発生する相続税は多額になるほど、後継者の財産状態の悪化が会社経営にまで影響を及ぼす場合もあります。

相続後に安定した会社経営を継続するには、相続税対策が不可欠です。中には、相続開始後ではできない対策もあるため、事前の準備が重要です。
ここでは、相続税の負担軽減対策に有効な2つの方法をご紹介します。

 

3-1.株式の評価額を下げる

相続税の額は、株式を換金した場合の金額=自社株の評価額によって算出されます。そのため、株式の評価額の低下は相続税の軽減に直結する対策として効果的です。

具体的には、利益・純資産・配当金を減らす以下の方法で対策します。

  • 引退する役員への退職金支給
  • 不動産の購入
  • 減価償却費の計上

【引退する役員への退職金支給】

退職金を支払うと会社の利益が減り、財産の減少につながります。財産が少なくなると株式の評価額も下がるため、退任する経営者や役員への退職金の支払いは相続税対策に有効です。

【不動産の購入】

土地や建物などの不動産は、現金に比べて相続税評価額が低い傾向にあります。そのため、株式を相続する前の不動産購入は、自社株の評価を下げる行為と言えます。

ただし、購入から3年を経過しない土地建物は、帳簿価額のまま計算すると定められているため、早めの購入が必要です。

【減価償却費の計上】

減価償却とは、パソコンやコピー機など長期にわたって使用し、時間の経過によって劣化する資産の購入費用を、使用できる期間で分割して計上する会計処理です。

減価償却対象の資産は、購入時に全額を経費計上せず、分けて計上するため利益が減り節税になります。設備や機械の入れ替えを検討している場合は、相続の前に行うと税額を抑えられます。

 

3-2.事業承継税制を利用する

事業承継税制とは、株式の贈与や相続を受けて非上場会社の後継者になったとき、多額の贈与税・相続税による税負担軽減のために創設された制度です。2018年度の税制改正で10年間の限定措置として要件が緩和されました。

事業承継税制を活用することで、対象株式にかかる贈与税・相続税の「納税猶予」を受けられます。また一定の要件を満たすと、猶予されている贈与税・相続税の納付が免除されます。納税猶予の期間に定めはなく、「納税猶予の取り消し」または「さらに次の後継者に相続・贈与」となるまで続きます。

ただし、事業承継税制の活用にはメリットとデメリットがあります。

メリット デメリット
  • 贈与税・相続税の猶予がある
    (要件により免除)
  • 煩わしい手続きが一生続く
  • 条文が膨大で制度が複雑である
  • 納税猶予取消の可能性がある

事業承継税制を活用するデメリットは、制度の利用や継続にともなう提出書類の多さと制度の複雑さです。膨大な条文と細かい規定があり、書類の作成や添付書類の収集にかかる労力で事務負担が大きくなります。

また、継続届出書の提出などの要件を満たせないと納税猶予が取り消しになり、対象となる納税額と利子税を全額支払う必要があるのもデメリット1つです。

事業承継税制は節税対策に絶大な効果を期待できますが、制度を利用する際は税理士などの専門家への相談をおすすめします。相続コンサルタントなどの相続税専門の税理士であれば、ワンストップで手続きなどの事業継承サポートをしてもらえます。

事業承継税制の要件緩和は2027年12月までの特例制度です。適用を受けるためには、2024年3月までに特例承継計画を策定して都道府県知事に提出する必要があります。事業承継を検討しているのであれば、早めに相談しましょう。

出典:国税庁「法人版事業承継税制」

 

まとめ

会社を引き継ぐ際には、相続税や贈与税がかかります。
相続税は「死亡した親などから財産を相続したときに受け取った財産への税金」です。一方の贈与税は「個人から無償で財産を取得したときにもらった財産への税金」です。

相続税評価額の計算方法は上場株式か非上場株式かによって異なり、非上場株式の場合は相続する人によっても区分が変わります。

会社の相続にかかる税金を抑えるには、「株式の評価額を下げる」「事業承継税制を利用する」の2つの方法があります。いずれが適切であるかよく確認した上で、より良い方法を選びましょう。

監修者情報

森田 光昭(もりた みつあき)

税理士法人スマッシュ経営

森田 光昭(もりた みつあき)

資格:税理士

経歴

1952年
名古屋市生まれ
1976年
名古屋国税局採用
1992年
名古屋国税不服審判所審査官
1995年
資産税担当統括官
1997年
名古屋国税局国税訟務官室主査
1999年
名古屋国税局資産課税調査部門総括主査
2001年
特別国税調査官(評価)
2003年
評価専門官
2008年
名古屋国税局税務相談室相談官
2010年
1級ファイナンシャルプランニング技能士資格取得
宅地建物取引士資格取得
2011年
名古屋国税局税務相談室主任相談官
2013年
評価専門官付調査官
2015年
評価専門官付上席調査官
2017年
資産税審理担当上席調査官
2018年
名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 名古屋オフィス入社

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