2011年8月アーカイブ

えらい

 

 どうもこの言葉は、ほめる言葉としては、死語に近い感じがします。「あんたは偉い」と言われても、それほどでないし、言う方もそうでしょう。さらに名古屋弁には「体がえらい」というような使い方があり、これは関西弁の「しんどい」に相当します。そこでこんな笑い話があります。東京から来た人が、タクシーに乗った時に、「あんたえらそーだね」と言われて、降りるまで緊張したというのです。これは運転手が「貴方はお疲れのようですね」と言ったに過ぎません。

 一方子供相手に「お家のお使いかね、えらいね」とか「お母さんのお手伝いをして、えらいえらい」という風景も見る事がなくなりました。今ではそういう事は、子供もしないし、親もさせない故でしょうか。

 さて私には古い古いこんな記憶があります。それは昭和の大戦が終わったばかりの頃です。当時ほとんどの家庭は、配給の食料だけではとても足りなくて、皆飢えを我慢していました。山口判事という人が、職務上ヤミ米を拒否して、栄養失調で死ぬという暗いニュースもありました。我が家も、農家につてが無いので、食料確保にとても苦労しました。牛馬や鶏のえさのフスマも食べました。非常にまずいものでした。

 そんなある日、母から私に、食料の買出しについてくるように言われました。そして郊外のとある農家に入りました。そこで母の持参の着物が、トウモロコシやカボチャにかわりました。(お米はかなりの物を出さないと、交換してもらえません)とその時、農家の人が私に目をとめて「僕、お母さんのお供かね、えらいね」と言って、私の小さなリュックサックに、さつま芋を幾つか入れてくれました。これが我が家の貴重な夕食になったのは、言うまでもありません。

 今にして思えば、あの出来事は、可愛くなくとも、子供連れなら同情を引くだろうという、母の精一杯の計算だったに違いありません。

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歌をほめる

 

 日本の名も知られていない人達が発明したカラオケは、その後ブラザー工業が手掛けた通信カラオケの発達もあって、今では世界中に広まったようです。とりわけ中国には、トイレ付き、宴会OKの豪華なものが普通に有って、それはもはやカラオケボックスとは呼べません。いずれにせよ、そんな場所で、仲間同士だけでなく、会社の上司が同席したり、接待にも利用となると、当然ほめる言葉も必要となります。

 この場合に拍手と「お上手ですね」位ではいかにも平凡です。そこで「いい声ですね」とか「高音がよく伸びますね」とか「アンコール」なども必要でしょう。さらに海外駐在経験者や英語自慢の人が「マイウェイ」や「霧のサンフランシスコ」などを歌えば、「やっぱり発音が違いますね」なんてヨイショも出番となります。

 さてここで私の数少ない成功談(自慢話)をお聞き下さい。

 場所は台北で、現地の人たちと我々の宴会カラオケでした。私がなんとか一つ覚えの、テレサテンの「何日君再来」を、酒の力を借りて歌いました。続いて台湾の医師の人が歌ったのですが、これが実に素人離れしていました。そこで私が、大学でグリークラブ(男声合唱団)にいたのですかと尋ねたところ図星でした。ここでとっさに口から出たのが「班門弄斧」で、これが自慢の「ヤッター」なのです。というのも、この「班」は「魯班(ろはん)」といって、中国では曲尺(カネジャク)も発明したとされる大工の始祖なのです。だから「魯班の門前で斧をふりまわす」すなわち「左甚五郎の前でノミを使う」です。

 この有名なことわざは、ドクターを大変喜ばせました。お陰で酒を何杯も飲まされましたが、私の実力では彼の中国語がほとんど聞きとれなくて、酔いもさめていきました。でもこの「身の程知らず」は、日本でも使えると思いませんか。

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粋いき

 この言葉は、いささか古風な感じがしますので、使う相手は限られているようです。まず子供相手には絶対使いません(そりゃそうでしょう)。若い人にも似合いません。そこで「粋」の定義を辞書でみますと、

「意気」から転じた語

①気持ちや身なりのさっぱりとあかぬけしていて、しかも色気を持っていること。

②人情の裏表に通じ、特に男女関係についてよく理解していること。

③近世後期の江戸町人の生活全般にわたる美意識、美的理念。

なお反対語は、「野暮(やぼ)」となっています。

また「粋」は「すい」とも読みますので、そちらをみますと

①まじりけのないこと、またそのもの(純粋という使い方)

②すぐれているもの、えりぬき(日本文化の粋)

③「いき」と同様の意味(粋人)

そして反対語は「無粋(ぶすい)」となっています。

 なるほど、これではある程度の年齢以上の人にしか使えない訳です。

 しかしこの言葉は、以下のような例もあります。

 それは往年の春日八郎の大ヒット曲「お富さん」の「粋な黒塀 見越しの松に あだな姿の洗い髪・・・」の歌のように、人でないものにも使えるのです。その点では、応用範囲は、意外に広いかもしれません。

 そこで私には使えませんが、皆さんが上司や先輩と飲んだ時などに、「・・・粋ですねぇ」なんてセリフが、壺にはまれば、少なくとも「ワリカン」は無くなるはずです。だってそんな野暮なことは、粋と呼ばれた人には、出来ないでしょうから。

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「あたまいい」もしくは「あったまいい」

 

 私のような者でも、若い時にデートと称するものをした事があります。場所は喫茶店でした。当時の大概の店の造りは、外部と遮断した世界が売りで、中に居ると外の様子はまったく分からなくなっていました。そこで彼女と語らいをしていた時のことです。私達の横を新しく入って来た客が通りました。私が「雨が降ってきたみたい」とつぶやきました。と彼女が「どうして」と尋ねました。そこで私が「今の人の足跡が濡れていたから」と言った時です。なんと彼女は「あたまいい」と言ってくれるではありませんか。

 その時の私は、まさに天に舞い上がったような気分でした。しかし残念ながら、この一寸ヘップバーンに似た人は、私とは違う姓となって、今はS市で良いおばあちゃんになっているようです。まあそんな事はともかく、このほめられた言葉は、50年近く経っても、鮮明に記憶に残っています。(少し未練が残っているせいかも)

 勿論こんなストレートなほめ言葉は、使う相手とT.P.Oに注意が必要ですので、簡単には使えません。だけど意外に身近な処で使えると私は思っていますが、どこでしょう。皆さんも一つお考えください。

 そうこれは夫婦とか親子の間で使えます。この場合ですと、冗談まじりでもOKです。そこでもし子供さんに「お父さん(又はお母さん)あったまいい」なんて言われたら、お小遣いを増額しても良いという気になりませんか。

 なお蛇足とは言えない大事な事を申し上げますと、この言葉の反対の「頭が悪い」は、特に子供さんに、絶対に言ってはなりません。トラウマを作る可能性さえあります。私の友人で昔これをやってしまい、今でも後悔している男がおります。

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