2009年9月アーカイブ

 前回は「あ」で始まったので、順序として「い」で始まる言葉を考えますと、矢張りこの言葉に行き着きます。

「いかす」

 この言葉は、私自身どうも違和感があって、言えなかったというより使った記憶がありません。そこで色々の辞典で、語源を調べてみました。

 日本語の最大の辞典である小学館の「日本国語大辞典」では

 相当なものである。なかなかいいと思わせる。という意の俗語。「この酒はいける」などの「いける」から変化した語か。

 ついで広辞苑では、

 なかなかいい。気がきいている。1958年頃の映画から流行。

 となっています。他の辞書も「新明解国語辞典」を除いては大同小異です。

 そこで異色の東京堂出版の「日本俗語大辞典」をみますと、

 かっこいい。1958年人気絶頂の石原裕次郎が日活映画で盛んに使い、若者に流行した言葉。歌謡曲にも盛んに取り入れられた。もともと軍隊で使われた俗語。今では古くさく感じられる。

 となっていて、フランク永井の「いかすじゃないか西銀座駅前」や、林真理子の小説の一節などの使用例が取り上げられています。

 という事は、私の青春時代と「いかす」の流行は、ぴったり一致するのですが、私としては全然実感がありません。

 それというのも、当時の私は、遊びといえば、囲碁、麻雀、映画、草野球、夏山登山、下手なスキーと、たまの居酒屋かスナック通いです。そして何より「いかす」も「いかさない」も「彼女」はゼロですから、この言葉とはまったく無縁の生活を送ってました。 

 そして今日まで、「愛してる」も「いかす」も言われた事の無い人生でした。

 

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 実はこのタイトルは、或る本の題名をもじったものです。それは最近出版された益田ミリさんの『言えないコトバ』(集英社)からです。この本は作者が種々の理由から口に出せない幾つもの単語を、エッセイとマンガで綴ったものです。

 その中には「おひや」とか「おあいそ」「サプライズ」等の身近な題材が、30あまり収められています。

 私はこの本を読んで、共感したり、笑ったりするものが幾つもありました。そこで私も真似をして、この年までにどうしても「言えなかったコトバ」を書いてみようと思いつきました。過去形なのは勿論私の年齢の故です。彼女は1969年生まれ。

 さてその真っ先に浮かんだのは、次の言葉です。

 「愛してる」

 私はこの言葉をどうしても口に出せませんでした。多分、前後不覚に酔った状態でも無理でしょう。「好き」という言葉は(何回か?)口にしていますが、この「愛してる」はどうもいけません。言えないし、言えなかったのです。

 私はそもそも「愛」という言葉は、何か崇高なもの、別世界のもののように考えています。

だから小説や映画の主人公が言うのはかまいませんが、私のような俗物が言うべきでないし、言ってはいけないと思っています。だから古い話ですが、ハンフリーボガードの「カサブランカ」やジャンギャバンの「望郷」のような映画なら、たとえセリフがなくても、この言葉が聞こえてきます。

 そんなことから、裕次郎の「好きとは言えぬ、何故言えぬ、古い傷跡あるからさ…」は歌えても、「愛」がつくのは駄目です(マヒナスターズの「愛しちゃったのよ」は例外)。

 そういえば、プレスリーの “I want You,I need You,I Love You” の前の二つの邦訳も口にしたことがありません。さらに中国語の「我愛? ウォ アイ ニィ」も、残念ながら発音する機会はありませんでした。

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